ここでは実際にレースに参戦する場合の流れを書き綴ってみる。やることは多そうだが、一つ一つこなしていけば大丈夫。チームの仲間はもちろんの事、初めてだと言えば隣のパドックのクルーだって助けてくれるはずだ。レースはライバルがあって成立する競技であるから皆仲間なのだ。
レースにエントリーを申し込むと言うことは自信はさておき自分の中で何かの課題を達成したか準備ができてきて、ちょっと試してみたいと思い出した証拠だ。この気持を大切にして欲しい。何故なら、表彰台の中央に立つまで全てがこの繰り返しだからだ。
小さな達成と喜び、そして次の課題。スピンが減ったとか、石野サーキットで40秒台より早くなったとか、曲がるブレーキが踏めるようになったとか、小さな進歩はたくさんあるはず。
時にはスランプ。でも実はスランプなんてなくて、階段で例えると最初は1階、2階、3階と登るたびに窓があって景色が見られるのだけれど、10階から15階までは窓がなかったりするようなもので、練習さえしていれば階段を必ず登っている。そして見える景色が一気に変わったときに覚える感動はまた言葉にならないほどグッとくる。時には「えっ?それだけのことだったの!?」という感覚で衝撃的に突破することもある。
さておじさんのレース参戦の目安はどれくらいかと聞かれたら、自分の独断と偏見で答えれば「気が向いたらいつでも」となるが、周回遅れのブルーフラッグを見なくて済むくらいになった頃が出番じゃないかと思う。
とにかくクリアLAPのタイムとライン取りが毎回揃うように走れる練習をしよう。毎回バラバラの走り方をして、まぐれで好タイムが出てもレースではそのタイムは絶対でないと思っていい。そしてあまり欲張ってたくさんの課題を練習に詰め込まずに、根本的に欠けているような技術を発見認識して1つづつできるようになっていくことが大切だと思う。
「上手になったらレースに出よう」は「英語が理解できるようになったら英語塾に行こう」ぐらい的がズレてると思う。レースに参戦する事によって少しづつ成長して早くなっていくという構えが表彰台への一番の近道で、ましてや「俺は本当は早い」とどこかで思っているうちは絶対に勝てない。
レースなんて以ての外でオジサンが怖がらずに楽しくカート体験できればいいなと思って、練習するだけならハードルは低いよと楽しさをPRするページを書いてきたつもりだが、気づいたらかなりガチな文言になってきている事に気づいているが執筆続行。
実際に色々な練習をするのはここまでと考えていい。新しい乗り方を試すなどのチャレンジはこの段階だと厳しいかもしれない。どんなライン取りをするのか、どんな装備で行くのか、現在の体重で車両総重量はどれくらいになるのか、必要な交換や修理の段取りもこのあたりまでに済ませたい。できる事ならレインの経験をしておくのもいい。試合当日に雨なので棄権というのも残念だからだ。
そして忘れてはいけなのがエントリー。受付に行って来週の試合に出ますと告げて、空いているゼッケン番号を教えてもらおう。番号が決まったら、ナンバーステッカーを購入し、自分の前後左右に張ろう。レンタル車両であれば養生テープで重ね張りするのも手だ。
気候のコンディションは前日であれば、ほぼ当日と同じと考えていい。エンジンのセッティングや、足回りの調整をしておきたい。フロントカラーはいくつか?リアとレッド幅は?固めで行くのか、柔らかめで行くのか?フロントスタビライザー有りか無しか、2ベアリングか3ベアリングかなどの意思決定をしていく。
実際始めたころはこの辺りがわからなくても問題はない。もちろんノーマルセッティングで参戦しても大丈夫だから、何も触らないのであれば練習に充ててしまってもいい。
前日練習はレース用のトランスポンダー(計測器)が走行券の代わりとなるので、朝受け取ってコースに入ろう。石野サーキットの場合概ねクラス分けで時間が区切られているので、ダラダラと練習せず、本番さながらでタイヤが冷えた状態から全力で20週走って帰ってくるという練習をしてほしい。温度でタイヤの性格が変わっていくのでこの変化にも慣れよう。
お昼からの1セッションくらい練習したら、あとはマシンの整備に充てる。頼んでおいたスプロケットやチェーンの装着、新しいタイヤへの交換、交換したタイヤへのナンバリング、点火プラグの交換。可動部へグリスを塗ることも重要だ。
その上エントリーシートの記入もある。エントリーシートにはエンジンの形式とナンバー、フレームモデルとナンバー、レーシングスーツのナンバー、ライセンス番号、SLO保険番号など全部記入することになるので整備も書類もやることが多くて忙しい。
朝サーキットに到着したら、カートにガソリンを入れてレーシングスーツに着替え、エントリーシートを持って車検を受ける。タイヤに車検印を押してくれる。実は車検にガソリンは不要なのだがこの後すぐに計量を行って本日のガソリン積載量を決定しなくてはならない。自分のSSクラスだと総重量145Kgを越えていれば大丈夫なのだが、あくまで走行後の重量なのであまりギリギリを狙うと「144.9Kg失格」なんて事も普通に起こるので決勝なら15周分のガソリンより多く入れておく必要がある。ミッシングスタートによりローリングが繰り返されたり、燃費が変化することも要因だ。
ドライバー全員参加義務のドライバーズミーティング。基本の注意事項から、追加の付則などの案内がある。ルールについて質問もできるのでわからない事があればここでクリアにしておくといい。
各クラスごとに7分の自由練習が認められている。スタート位置は1コーナー手前のダミーグリッド。練習と言ってもこの時間はセッティングの時間と考え、エア圧の確認やキャブレターセッティングに充てると良いと思う。もちろん目いっぱいタイヤの皮むきをしたっていいし、タイヤの温存ですぐに戻ってくるのもありだ。
戻ってきたらチェーンルブを塗るのを忘れずに。
今度は予選グリッドを決定するタイムトライアル。5分の走行時間内に出したベスト順にグリッドが決まっていく。実力ばかりではなくグリッド位置でも勝敗が決まりやすいので、できるだけベストタイムを出したいところだ。
既に公式記録となっているので、走行後に計量がある。計量結果をもとに予選のガソリン使用料を予測し、足しておこう。走行する度のチェーンルブも忘れずに。
今度は決勝グリッドを決定するレースだ。SSクラスの場合10周でのチェッカー順でグリッドが決まっていく。1LAP目の1コーナーホールショットは殺気立ってくるので要注意。早いだけではだめで、コーナーでの駆け引きも重要だ。できるだけベストタイム、ではなく前に出たいところだ。
もちろん走行後に計量がある。ガソリンの追加とチェーンルブも忘れずに。
※ローリングスタート
ダイレクトエンジンの搭載があるクラスでは、予選と決勝がグリッドスタートではなくローリングスタートいう方式で開始される。これはコントロールラインまでは隊列を組んで時速30Km程度で列車のように揃って走り、先頭車両がコントロールラインを抜けたところから試合が開始される。注意する点は、レッドシグナルが消えるまで隊列を崩してはいけないという事と、コントロールライン手前中央の白い白線(コリドーライン)踏んではいけないということ。良心的なオフィシャルの場合はこれらが確認されるとミッシングスタートとしてもう1周ローリングを追加して仕切り直してくれたりもするが、違反車両のマークだけしておいて試合自体はそのまま開始しレース終了後に失格宣言というパターンもあるので、この違反には気をつけなければならない。一所懸命走っても台無しだ。
泣いても笑っても決勝。1番早くチェッカーを受けた者が勝ちで、それ以外は全員敗者という判りやすいルールだ。多くの子ども施設で流行っている「皆手をつないでゴールイン」など以ての外。ホールショットは最高に激戦で、車両だって回るし飛ぶ。頑張って前に出るんだ!インから無理やり曲がれ!
SSクラス決勝は全15周。オジサンには堪える周回数で、初めての頃はもう限界だと感じてやっとの思いで電光掲示板を見ると無情にもまだ残「7」と表示されていて泣きそうになった事を覚えている。周りが段々静かになって、自分の呼気しか聞こえなくなってくる。絵がゆっくりに見え出す。時間が長くなる。映画のシーンでありそうな状態を本当に体験することができる。これは肉体的精神的に推奨される状況なんだろうか。
上位3名にはトロフィーとチャンピョンキャップ、副賞などが用意され祝ってもらえる。高嶺の花ではあるが、是非自分も祝われたいものだ。最近はコロナの影響でシャンパンファイトが省略されているのが残念。
ドライバー、ピットクルー、観戦者問わず参加できるお楽しみ抽選会。食材が当たることが多い。先日頂いた具だくさんの石野味噌鍋セット(スポンサーさんどこでしたっけ?)で木村家の食卓も潤されている。
何となく参戦したような気分になってもらえただろうか。是非自分のカートで走ってみてもらいたい。